コラム

2020.08.14

交通事故で健康保険は使えるか?使うべきケース・使えないケースを解説

交通事故に遭った時の治療に健康保険が使えるのはご存じですか?
健康保険を使用できるかどうかや、使用するうえで必要な手続き、そしてそのメリット・デメリットなど、よくある質問について詳しく解説していきます。
いつ巻き込まれるかわからないのが交通事故です。
もしものときのために、普通のケガとは異なる交通事故治療の注意点を理解しておきましょう。

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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、桐蔭法科大学院法務研究科修了。交通事故分野を数多く取り扱うほか、相続、不動産、離婚問題など幅広い分野にも積極的に取り組んでいる。ご依頼者様の心に寄り添い、お一人おひとりのご要望に応えるべく、日々最良のサービスを追求している。
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交通事故で治療が必要になった場合、健康保険は使えるの?

「交通事故には、健康保険は使えない」と聞いたことはありませんか?

結論から言うと、これは間違っています。
交通事故の治療では健康保険を使用できないというイメージを持っている人も多いですが、原則として健康保険を使用した治療が受けられます。

交通事故の治療にかかる費用は、基本的に加害者に支払い義務が発生します。
しかし、治療開始当初から負担してもらえるケースは現実的にはほとんどなく、治療費は一時的に自分で立て替えなければならない場合も多いです。
こうした事情から、「交通事故では健康保険は使用できない」という噂が広まったのかもしれません。

しかし、旧厚生省からの通達(昭和43年10月12日保険発第106号)でも、「交通事故でも健康保険の保険診療が受けられる」との見解が出されています。
交通事故の治療に健康保険を使わない自由診療を提案してくる病院もあるようですが、病院が自由診療を勧めてきた場合でも健康保険は使えます。
健康保険か自由診療のどちらを選ぶかは、あくまでも治療を受ける事故被害者が決めることなのです。

健康保険を活用しなくてもよいケース

加害者側の保険会社が治療費を全額支払ってくれる場合

加害者と被害者の過失割合が10対0ならば、被害者は健康保険を使う必要がない場合があります。
被害者側に過失が全くないのであれば、治療費を含む損害賠償金を加害者側に全額請求できるからです。

ただし、当事者による話し合いが長引いた場合には、治療費をいったん自分で立て替え、全額を自己負担することもありえるでしょう。
話し合いが終わらないからといって、治療を先延ばしにするわけにはいきませんので、治療費はいったん自己負担して立て替え、後日話し合いが完了したあとに加害者に請求します。
立て替えて全額負担することに不安がある人は、健康保険の使用を検討した方が金銭的には楽かもしれません。

労災保険が適用された場合

業務中や通勤中に発生した交通事故は「労働災害(労災)」として扱われます。
労災によるケガや障害の治療には労災保険が適用され、そもそも健康保険を使うことができません。

労災保険は、原則として全ての会社に加入義務があります。
たとえ従業員が1人しかいない会社でも、加入しなければなりません。
そのため、交通事故が労災と認められれば、正社員か否かにかかわらず、勤務先の労災保険が適用されるのです。

それではどのようなシチュエーションで労災認定がされるのでしょうか?

まずは「通勤災害」が当てはまります。
これは名称のとおり、会社への通勤途中でのケガや病気、障害、死亡のことを指します。
この「通勤」という言葉は、単に家から会社への往復だけでなく、事業所から別の事業所への移動なども含まれます。

もうひとつは「業務災害」です。
これは簡単に言うと、仕事中のケガや病気、障害、死亡のことを指します。
ただし、交通事故における労災認定の条件は、仕事中にその仕事が原因で事故に遭った場合に限られます。

健康保険の活用を必要とするケース

交通事故_健康保険_必要なケース

被害者にも過失がある場合

被害者側にも事故の責任がある場合、のちに過失相殺をされる可能性があります。
過失相殺とは、事故の加害者だけでなく被害者にも過失があった場合に、損害を公平に分担するため、被害者側の責任割合相当分を損害額より差し引くことです。
結果として、被害者に責任がある分の治療費は被害者自身が負担することになります。

しかし、健康保険を利用すれば、自己負担分の治療費を全額負担から3割負担に抑えることができます。
すなわち、被害者にも過失がある場合は、健康保険を使う方が負担額を抑えられる可能性があるということです。

加害者側の保険会社に支払を打ち切られた場合

治療を続けていると、保険会社から支払いを打ち切られることがあります。
これ以上治療を続けても症状は治りきらず、将来にわたって事故による症状が残る状態を「症状固定」といい、「症状固定」と判断された時に、打ち切られたという声がよくあります。

医師から症状固定と判断されると、それ以上の治療行為に関しては事故との因果関係が弱まったと認識され、保険会社からの治療費の支払いがストップします。
その後の通院は自己負担となるため、健康保険を使って負担額を減らすことが賢明と言えます。なお、後遺障害が認定された場合は、症状固定後の治療費も、加害者側から支払ってもらえる場合もあります。

加害者が任意保険に加入していない場合

加害者が任意保険未加入、つまり自賠責保険にしか加入していないパターンです。
こういったケースでは、健康保険の適用次第で自己負担額が変わります。

自賠責保険とは、法律により加入が義務付けられている「最低限の補償をする保険」です。
最低限のものなので、支払われる賠償額に上限があります。
ケガは最大120万円、死亡は最大3,000万円までです。
つまり、事故の度合いやケガの程度によっては、被った損害のすべてをまかないきれない可能性があります。

受け取ることができる賠償金額は、過失割合や治療費によって大きく変わります。
場合によっては自己負担額が大きくなってしまうこともあるため、注意が必要です。

具体例を見てみましょう。

(例)【過失割合】加害者:被害者=80:20 【治療費】200万円

(1)健康保険を使わなかったとき

  • 病院に支払った金額:200万円
  • 加害者に請求できる金額:200万円×0.8=160万円
    (自賠責限度額以上のため、実際の賠償金額は120万円)
  • 自己負担額:200万円-120万=80万円

(2)健康保険を使ったとき

一般的な健康保険適用時の自己負担割合である3割負担として計算します。

  • 病院に支払った金額:200万円×0.3=60万円
  • 加害者に請求できる金額:60万円×0.8=48万円
  • 自己負担額:60万円-48万円=12万円

以上のように、健康保険を使うか否かで、かなりの金額差が生まれるのが分かります。

賠償金の総計が自賠責保険の上限を超えた際は、自賠責保険でまかないきれない金額を支払ってもらうよう加害者に交渉します。
しかし現実的には、自賠責保険にしか加入していない人に、高額の賠償金を負担する資力が十分にあるとは考えにくいでしょう。
つまり最悪の場合、加害者に支払ってもらえなかった分は被害者の自己負担になってしまうのです。

このような事態を避けるために、自分にとって最適な結果になるように、複数のパターンを検討してから決めるのがおすすめです。

ひき逃げなど加害者側を特定することが不可能な場合

ひき逃げなど、加害者の特定が困難な事故もあります。
事故の相手が不明であれば、加害者の自賠責保険による補償も受けられません。
こういったケースの被害者を救済するために、「政府保障事業」という制度があります。

ただし政府保障事業は、健康保険などの給付を受けてもなお補償しきれない損害があるときの救済措置です。
よって、この政府保障事業を利用して損害のてん補を受ける際は、健康保険の使用が必須となります。
当然ながら健康保険から給付を受けた金額は差し引かれますし、支払われる限度額は自賠責保険に準ずるため、最低限の補償となる点にも注意が必要です。

加害者が自賠責保険も任意保険も未加入の場合

加害者が自賠責および任意保険のどちらにも加入しておらず、完全な無保険状態だったときはどうなるでしょうか。
まずは本人との交渉が想定されます。
しかしどちらも未加入のドライバーは、ほとんどのケースで賠償金を支払う能力がないと考えられます。

この場合も加害者側に請求するのは不可能なため、先にご紹介した政府の保障事業に請求するパターンが多いです。
その際も健康保険の利用が必須条件となっています。

健康保険を使用する場合に必要な手続きと手順

ステップ1:医療機関に申し入れをする

窓口で保険証を提示するだけでなく、「健康保険を使います」とハッキリとした意思表示をするのがおすすめです。

ステップ2:健保組合に届け出をする

次に、加入している健保組合に対して「第三者行為による傷病届」を提出します。
交通事故に限った話ではありませんが、第三者の行為が原因でケガを負ったときの治療費は、加害者が負担するというルールがあるからです。

ほとんどの場合、加入している健保組合に連絡をして、後日送られてくる必要書類に記入するという流れになります。

健康保険を活用するメリット

自己負担額を減らせて受け取り賠償金額が増える可能性がある

先にも説明したように、加害者が任意保険未加入だと、受け取ることのできる賠償金額に大きな差が生じる可能性があります。
自賠責保険の限度額(120万円)は、慰謝料や治療費、休業補償費など賠償金のすべてを合わせた合計額だからです。
健康保険を使用すれば、治療費の自己負担金額が下がるだけでなく、その分受け取ることのできる賠償金額が増えることもあります。

示談交渉を有利に進められる

保険診療の場合、加害者側の保険会社からすると、被害者に対して支払う賠償金が安く済むので、示談交渉を有利に進められる可能性があります。

ただし、あくまでも交渉が有利になるというだけで、必ずしも賠償金が増えるという意味ではないので注意してください。

健康保険を活用するデメリット

使えない病院がある

保険診療に比べ自由診療は自由に報酬を決定できるため、病院の利益を優先に考え、健康保険の使用を断る病院がまれに存在します。
このような時は、他の医療機関を探すことも検討してみましょう。
ただし、健康保険の使用は原則認められているという点は覚えておいてくださいね。

治療内容や処方される薬に制限がかかる

健康保険で受けられる治療や処方される薬は、法律に定められた範囲内だけです。
したがって、ケガが重症の場合、先進医療やより高度な治療を受けられず、治療の幅に制限がかかってしまうおそれもあります。

交通事故で治療が必要な場合のよくある疑問

自由診療から健康保険治療に切替えはできる?

もともと自由診療で治療していても、途中からでも変えられます。

交渉次第では、既に治療を受けた分まで遡って適用できることもあります。
もともと健康保険を使用していたと判断され、実際に支払った金額と保険適用時の負担分との差額が払い戻しされます。

立て替える治療費すら足りない場合はどうすればいい?

あくまでも治療費は立て替えているものであり、最終的には加害者に請求します。
そのため、健康保険を適用した負担額の支払いさえも難しい時は、加害者側の保険会社に一度相談してみることをおすすめします。

交通事故に遭ってしまうと、自分自身の治療だけでなく、健康保険を使うべきなのか、加害者側との交渉はどうすればいいのか等、さまざまな判断を迫られます。
どうするのがベストなのかご自身で決められないときは、専門家の意見を聞くのもひとつの方法です。
自分自身の治療に専念するためにも、交通事故に遭ったときは弁護士にご相談されることをおすすめします。

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